工学男子の日常

モノづくりが好きな男子の日記です。

ロケット電装の作り方(5)

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2.5 部品調達


2.5.1 調達方法


電子部品の調達・会計は部品点数が多いなどの理由で他班と趣の異なるも
のになる。いちいち型番を報告し許可をもらって、という手順を踏んでいると
開発に遅れがでるので部品代としてまとまった額をプールし、会計担当者が
購入した物品を取りまとめた方がスムーズに進む。また一度にまとめて大量
に購入すると単価が下がるうえ送料の節約になるので、毎回使うような部品
は電子班として購入して備品としたほうが良いかもしれない。


購入先はいくつかあるが一番わかり易いのは実店舗で購入することだろう。
確実かつ即座に送料無しで部品が手に入るし、詳しい店員さんなら相談に乗
ってもらうこともできる。しかし欲しい部品を取り扱っていない場合が多い
し単価もインターネットで購入するより割高なので、すぐに部品がほしいと
きのみ利用する。なお購入の際はレシートと領収書を忘れずに保管する。
インターネットで部品を購入する方法としては電子部品専門サイトから購
入する方法と一般のネットショッピングサイトから購入する 2 つがある。


専門サイトで代表的なのは秋月電子である。品揃えもよくかなり短納期で
届く。単価も実店舗と比べると安い場合が多い。送料が 500 円かかるのでな
るべくまとめて注文する。よく使われる部品のほとんどは取り扱っているの
でどの型番の部品を使うか検討する段階でも役に立つ。その他の専門サイト
としてマルツオンラインと Digi-key がある。この 2 サイトは提携していて UI
も似ているのでまとめて紹介するが、非常に高度な絞り込み検索機能を持っ
ている。例えば FET なら定格電流だけでなくパッケージングやしきい値電圧
での並び替えも可能である。またグローバル部品サプライヤーである Digikey と提携したことで秋月より豊富な在庫を保有している。マルツオンライン
から Digi-key の在庫を取り寄せて店舗受取りにすると送料無料で購入できる
ので便利である。


上記の店舗、専門サイトは最も間違いのない方法なので失敗が許されない
短納期の開発ではそちらを利用したほうがいい。ここから紹介するのは本当
に費用を安く抑えたい、かつ時間が十分にある場合に使える方法である。なぜ
このような書き方をするのかというと発注から納品まで 1 ヶ月は当たり前、
途中で荷物が行方不明になったり偽物が送られてきたりといった事例がある
からである。中国版 Amazon ともいわれる AliExpress を利用すると電子部品
の街深センから原価で部品を仕入れることができる。部品によっては単価が
専門サイトの十分の一以下になることも珍しくない。一般の通販サイトなの
で当然絞り込みなどはないから型番を決めてから検索をかけると良い。それ
か「FET SOT-23 50V」などと検索しても見つけることができる。おそらく同
じ部品を複数の業者が出品しているのでなるべく多く注文されている業者を
選んで発注すると比較的安全である。それでも国内価格と比べて異様に安い
場合はレビューを注意深くチェックしたほうがいい。実際に電子班で注文し
たレギュレータが通電すると即座に発煙する偽物だった事例がある。それで
も当たりの業者を引けば激安価格で部品を購入できるので覚悟できる人には
ぜひ利用してもらいたい。購入する場合は 100pcs(piece:100 個入り)など
の単位でまとめて購入すると安くなる。チップ部品などは失敗などで案外使
うのでかなり多めに買って問題ないと思われる。


2.5.2 代表的な部品


以下に各部品で代表的なものを記載しておくので検索の助けとして欲しい。
9 軸:

  •  MPU9250:6 軸センサの MPU6050 に磁気センサが追加されたもの。うまくするとQuaternion が出力できる内蔵処理チップ(DMP)が使えたりするが前述の構造のせいで扱いが難しい。それでも安いのでライブラリがあればお得。
  • LSM9DS1:FIFO やフィルタなど機能が多いが DMP はない。作りは素直なので動かすだけなら簡単だが使いこなそうとすると長大なデータシートと格闘することになる。とても高いがマルツで売っている。
  • BNO055:DMP 内蔵でそこまで高くない。

気圧センサ:

  • BMP085、BMP180、BMP280:同じメーカーの同じシリーズで同じプログラムが動く。

GPS: 

  • AE-GYSFDMAXB、NEO-6M(-7M・-8M):9600bps の UART で NMEA フォーマットなので精度とか細かい仕様以外はピン配置が違うだけ。

通信モジュール:

  • IM920:データシートは日本語で読みやすい。応答時間のフォーマットがソフト屋泣かせ。
  • XbeeZigbee:かなり以前からある通信モジュール。
  • TWE-Lite:トワイライトと読む。低電力通信モジュールのルーキーだが使ったこ
  • とないので性能はよくわからん。

コネクタ:

  • XH コネクタシリーズ

レギュレータ:

  • AMS1117(1117 系):低電力の LM1117 とか色々ある。3.3V0.8A、5V1.2A などバリエーション豊か。普通の性能で色んな製品に使われている。安い。
  • ADP3338-AKCZ:超 LDO でドロップは驚異の 190mV。3.3V 1A が供給できる高性能で国内価格は 1 個 300 円もする。Aliexpress ではほとんど偽物。

MOSFET

  • 2SJ681:Pch MOSFET で一番一般的なものでマルツでも売っている。リードなので表面実装には足を曲げる手間がある。60V8A もあるのでもっと小さいもので置き換えたい。
  • 2SK4017:Nch MOSFET で一番一般的なもの。

開発ボード&マイコン

  • Arduino:Atmega328P というマイコンを積んだボードと開発環境 ArduinoIDEのセット。Aliexpress なら最安で 200 円から手に入る。電源系が内蔵されているので実験や小規模電装には便利。通信 IO や RAM、FLASHの少ないので大規模な電装には使えない。
  • Mbed:積んでいる CPU やメモリの違いでいくつかのバリエーションがある。開発環境がブラウザなのが特徴。6 千円もする。
  • STM32:パッケージやメモリの違いで種類が多い。STM32F103C8T6 を積んだボードが 160 円、チップ単体が 100 円で出回っている。ArduinoIDE に追加パックを入れれば Arduino と同じプログラムが動く。公式には対応してないが実は Mbed も動く。チップ単体で購入して周辺回路を自作してやれば小型軽量安価。機能が多い分使いこなすにはかなり知識が必要。
  • ESP32:CPU が 2 つ載っていてメモリも速度も(マイコンとしては)超高性能機。開発は ArduinoIDE を使うことが多い。余計な Wi-Fi までついてくる。CPU2 つで通信と処理を同時にといった用途が考えられるがそこまでの要求が今の所ない。

表面実装(SMD)用パッケージで代表的なもの

  • MOSFET:SOT-23
  • レギュレータ:SOT-223
  • ダイオード:SOD-123
  • チップ部品(海外サイトのインチ表記):2012(=0805)、1608(=0603)

 

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ロケット電装の作り方(4)

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2.3.2 通信系統の設計


続いて通信系統の設計を行っていく。マイコンとセンサ、記録装置、コン
ピュータなどの間で用いられる通信方式には以下のようなものがある。

  • I2C(アイツーシー、アイスクエアドシー) 9 軸、気圧センサ等
  • SPI(エスピーアイ) SD カード
  • UART(ユーエーアールティー、ユアート) GPS、通信装置
  • USB(ユーエスビー、Universal Serial Bus) コンピュータとの通信
  • シリアル通信 コンピュータとの通信

一般的に呼ばれている名称で記載したが、UART は定まった規格でなく部
品の名称であるとか、USB は通信方式の規格ではないとか面倒な話がある
ので専門家や詳しい人、細かいことを気にする人と話すときは注意する。通
信方式については説明事項が多いため重要なものについて個別に解説を加
える。


2.3.2.1 I2C


主にセンサで用いられている通信方式である。正式名称は I²C(アイス
クエアドシー)だが簡便に I2C(アイツーシー)と表記呼称されている。
通信の主である 1 つのマスターとそれに応答する複数のスレーブという
用語を用いて通信方向を表す。特徴はスレーブを数珠つなぎに配線でき
るため特にモジュール数が多い場合に配線本数が少なく済むこと、マス
ターが通信タイミングを指示できるためプログラミングが容易なことな
どである。逆に他の通信方式に比べて通信速度はそこまで高速ではない
(読み出すデータ量は少ない場合が多いので問題にならないが)。また数
珠つなぎにしたセンサのどれかが故障するとそれ以外のセンサとも通信
ができなくなるといったデメリットがある。

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I2Cでの接続例

図は STM32 マイコンと 9 軸 MPU9250、気圧センサ BMP180 を I2C
で接続した例である。詳しい仕様は Wikipedia 等を参照していただきた
いが、I2C で必要な配線は信号のタイミングを伝える SCL(クロック)と
データを伝える SDA(データ)の 2 本のみである。ただし図のように 2
本とも 1k~47kΩ程度の抵抗でプルアップしておく必要がある。また当然
だがセンサの電源端子と GND 端子に適切な電圧の電源を供給する必要
がある。I2C ではモジュールごとにアドレスと呼ばれる番号が決まってい
る。また各モジュール内にレジスタという読み書きできる場所がある。モ
ジュールのアドレスとどのレジスタがどういう役割を持っているかはデ
ータシートもしくはレジスタマップに記載してあるのでそれを参考にす
る。
ここから先は仕組みの話なので知らなくても使うことはできるがデバ
ッグで役立つかもしれないので読んでおくことをすすめる。I2C では初め
マイコン(以後マスター)が送信開始を伝える。すると接続されている
全モジュール(以後スレーブ)が受信状態に入る。続いてマスターがアド
レスを送信する(名前を呼ぶ)と、そのアドレスを持っているスレーブが
ACK と呼ばれる応答を返す。ACK を受け取ったマスターはレジスタの場
所と、その場所を読み取ろうとしているのか書き込もうとしているのか
を送信する。読み取りの場合、スレーブはそのレジスタの値を送信する。
書き込みの場合、スレーブは続けてマスターから送られてきた値を指定
レジスタに書き込む。これによってアドレスが重複しない限り多数の
モジュールと 2 本の線で通信ができる。


2.3.2.2 SPI


SPI は I2C の欠点である速度の遅さを改善するためにできた規格であ
り I2C、SPI 両対応となっているモジュールも多い。相違点としてアドレ
スを送信してスレーブを呼び出すのではなく SS(スレーブセレクト)と
いう端子に信号を送って呼び出すようになったのと、データの送信と受
信を別の線で行うようになった。そのため合計で CLK(クロック)、MOSI
(マスターアウト・スレーブイン)、MISO(マスターイン・スレーブア
ウト)、SS で合計 3+モジュール個数分の配線が必要になる。ちなみに速
度は最大で I2C のおよそ 3000 倍程度である。電装における主な用途と
しては microSD カードへの書き込みに SPI が使われている。

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SPIでの接続例

図は MPU9250 と microSD カードを SPI モードで接続した例であ
る。プルアップは必要ない。SS はモジュールによって名称が異なるので
注意する必要がある。また SS はマイコン側に専用の端子がある場合も
あるが、電圧の HIGH、LOW 出力ができればよいのでソフトウェアから
制御する場合は空いている GPIO などを使う。


2.3.2.3 UART


非同期シリアル通信と呼ばれる方式で I2C や SPI と異なりモジュール
一つに対して受信(Rx)と送信(Tx)の 2 本ずつを配線する必要がある。
またマスターとスレーブという関係ではないので、データが突然送られ
てくる。そのためソフトウェアではデータを受信するたびに割込みをか
け次のデータが送られてくる前に割込みを完了させてまた待機、という
極めてハードウェアプログラミング特有の処理をすることになる。UART
は他の通信方式と違ってお互いの通信速度(baud rate ボーレート)を合
わせ てやる必 要がある。デ ータシー トに 9,600bps、19,200bps、
115,200bpsなどと記載してあるのでデータが文字化けしていたら確認し
て正しい速度を設定する。

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UARTでの接続例

図は STM32 マイコンGPS/GNSS モジュール AE-GYSFDMAXB
と 920MHz 帯通信モジュール IM920 を UART で接続した例である。マ
イコンの送信線はモジュールでは受信線となるので Tx は Rx に、Rx は Tx
にクロスして配線する。


2.3.3 筐体の設計


筐体は少しイメージしづらいかもしれないが、基板や電池ボックス、配線
を固定し外部からの衝撃や接触から保護するためのものである。基板はその
ままの状態では配線が露出しているので、金属片を基板上に落としたり金属
製のテーブルの上に置いたりするとショートしてしまう。また配線が固定さ
れていないとどこかに引っ掛けた時に力がかかって断線する恐れがある。ま
た力をかけなくてもケーブルが揺れ動くと接合部分が劣化していく。ロケッ
ト電装の筐体はロケットの構造に安定して固定され、発射や着地の衝撃に耐
える強度を持つ必要がある。また基板で荷重を支える構造にならないように
注意する。筐体は基板の枚数や機体のサイズなどに制約を受けるのである程
度製作の見通しがたってから設計しても良い。途中で設計を変更する必要が
あるかもしれないので 3D プリンタで製作するのが手軽である。


2.4 ソフトウェアの設計


2.4.1 フローチャートの設計


フローチャートとは打ち上げのどのフェーズ、どの条件でどのような動作
をするのかを定めたものである。

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フローチャート

図は海打ち機体のフローチャートである。条件分岐のひし形、動作の長方
形などを使い分けて設計していく。処理の途中で問題が生じたときにも無限
ループや未定義な動作をさせないようにする。上の図はかなりおおまかなフ
ローチャートだが、さらに詳細に具体的な処理について記載したフローチャ
ートを作成しても良い(多くの場合最も詳細なフローチャートプログラマ
の頭の中にある)。また電装には様々な処理があるがそれらの優先順位を確定
させておく。最も重要なタスクはパラシュートの開放機構の駆動である。次は
機体回収のための GPS 位置送信である。逆にセンサの計測値の記録の優先度
はそこまで高くない。環境によっては現在実行中のタスクより優先度の高い
タスクが発生した場合に現在のタスクを中断して優先してタスクを実行する
機能を持つものがある。例えば RTOS や NVIC などである。さらに何度も繰
り返されるセンサのデータ取得や記録などは、その処理をどのくらいの頻度
で(なんミリ秒ごとに)行うのかも決めておく。


2.4.2 プロトコルの設計


プロトコルとは通信やデータを記録するときの規則のことである。通信や
記録をする際に必要以上に情報を入れようとすると時間がかかってしまう。
かといって数字の羅列だけでは人間が見た時に読みづらい。また PC でファイ
ルを開けるようにするには PC が対応したファイルシステムに従う必要があ
る。そのため SD カードの保存には Fat(File Allocation Table)のライブラリ
を用いる。拡張子としては、カンマ(,)区切りで数値表を表す CSV 形式が簡
便である。

 

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2.3 ハードウェアの設計


部品の選定が完了したら設計に入る。ここで言う設計とは簡単に言えばそれぞ
れの部品の端子をどのように接続するかを決めることである。量が膨大になるた
めここには詳しくは記載しないが、回路を考えて回路図を描いていく。この作業
は後述する基板作成で使うソフトでやってもいいが、修正回数が多いので最初は
手書きのほうがイメージをつかみやすい。

基本的には電源系統からマイコンとモジュールへの電源供給ライン、マイコン
からモジュールへの通信ラインを配置していくことになる。
どの部品をどう配線するか決まったら回路作成ソフトで回路図を作成して
いく。Autodesk 社の回路作成ソフト EAGLE は学生であれば無料で使えて強力
な自動配線を備えている。標準のライブラリに使いたい部品がない場合は(とい
ってもよほど基本的な抵抗やコンデンサでないかぎり入っていないのだが)自作
することになる。


2.3.1 電源系統の設計


電源系統の設計は流れる電流が大きいのでミスをすると基板が燃えだす
などの事故が発生するから注意して行う。多くの場合、電池以外にも電源を
供給する線があるのが普通だからその順番にも留意する。例えば電池、フラ
イトピン、USB 端子を搭載した電装では、なるべく電池を温存するため USB
端子、フライトピン、電池の順で優先して流れる設計とする。特に開発ボー
ドを使用する場合、USB からの電源と基板に供給する電池の電流が衝突し
て発煙する事故がよく発生している。ダイオードMOSFET を用いて、あ
る電源から電流が供給されているときは別の電源経路が遮断される設計と
する。

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ダイオードを用いた逆流防止回路

 

図はIN1とIN2に同時に電圧を加えた場合の逆流を防止する回路である。
OUT に出力される電圧は高い方の電圧になり電流もそちらから供給される。
そのため例えば 6V の電池と USB の 5V を IN1、IN2 にそれぞれ繋いだ場合、
電池の方ばかり消費されてしまう。また OUT に出力される電圧はダイオー
ドの順方向降下電圧分(1V 程度)下がるのでその分高い電圧を供給する必
要があり、流れた電流に応じて損失も大きくなってしまう。

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FETを用いた片方を優先して流す低損失な逆接防止回路

図は IN1 を IN2 に優先して OUT から出力する回路である。IN1 に電圧が
供給されていない時、Pch MOSFET のゲートは抵抗 R1(10kΩ程度)によ
ってプルダウン(GND に接続)されドレイン・ソース間を電流が流れるよ
うになり OUT から IN2 の電圧が供給される。この状態で電流が流れたとき
抵抗は FET の ON 抵抗(0.1Ω程度)2 つ分だけなので損失が極めて少なく
なる。IN1 に電圧が供給されている時、FET のゲート電圧が高くなり FET は
遮断され、ダイオード D1 を通して OUT に IN1 からの電流が流れる。ただ
しこのときダイオードの順方向降下電圧だけ IN1 の電圧が降下して OUT に
出力される。この場合の損失は順方向降下電圧×電流である。この回路はIN1
に外部からの電源、IN2 に機体のバッテリーをつなぐことを想定しているの
で IN1 の損失は気にせず IN2 の損失を極力減らすようにできている。当然
ながらこれらの FET やダイオードは流れる電流やかかる電圧に十分対応で
きる製品を選ぶ必要がある。

続いて電圧の変換をする部分を設計する。基本的に DC-DC コンバータを
使うのは 1A 超えるような大電流を変換する場合や 12V から 3.3V のような
目的とする電圧が大幅に離れている場合のみである。マイコンとモジュール
のたかだか 200mA 程度であれば三端子レギュレータがサイズ、重量、供給
される電圧の安定性などの面で勝る。

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ADP3338三端子レギュレータを用いた電圧変換回路

図は三端子レギュレータ ADP3338 を用いて 8V~3.6V の入力電圧を 3.3V
に変換する回路である。三端子レギュレータはその名の通り 3 つの端子のう
ち入力端子に電源を、出力端子に出力を、GND 端子に GND を接続するだけ
で希望の電圧が得られる便利な部品である。C1 は入力電圧を安定させるコ
ンデンサ、C2 は変換した電圧を安定させるコンデンサである。特に C2 のコ
ンデンサについてはレギュレータの仕組み上、容量や応答速度が定められて
いる場合があるのでデータシートのアプリケーション欄を確認する。

ADP3338 の場合 1uF のコンデンサが指定されている。レギュレータには内
部の損失のため目的の電圧よりある程度高い電圧を供給してやる必要があ
る。この電圧のことを内部で降下する電圧という意味でドロップアウト電圧
という。このドロップアウト電圧が低いレギュレータを使うとより低い電源
電圧を用いることができる。つまり直列する電池の数を減らすことができる
かもしれないということである。ここには記載しないが近年では DC-DC コ
ンバータでもレギュレータサイズのものが登場してきている。

https://akizukidenshi.com/img/goods/C/M-11188.jpg

三端子DC/DCレギュレータ 5V BP5293−50: 半導体 秋月電子通商-電子部品・ネット通販

https://akizukidenshi.com/img/goods/C/M-13536.jpg

超高効率DC−DCコンバーター 5V1A M78AR05−1: 電源一般 秋月電子通商-電子部品・ネット通販

 

上はレギュレータに近い大きさを持つ超小型 DC-DC コンバータの例で
ある。ピン配置が三端子レギュレータと共通としてあるのでコイルやコント
ローラについて知らなくとも容易に置き換えが可能である。DC-DC の特徴
でもあるが入力範囲は 6.5~32V と幅広く、1A の出力が可能で変換効率は
90~94%に達する。レギュレータはその仕組み上電源電圧が高いほど損失が
増える特性があるので、特別に電池容量に気を使う用途や大電流を扱いたい
場合は DC-DC コンバータの採用を検討してみてもいいかもしれない。
このようにして変換された電流はマイコンやアクチュエータに供給され
るわけだが、そのままでは瞬間的に消費電流が増えた時に電圧が降下して最
マイコンの再起動などを引き起こす。またモータのようなコイルを持つ動
作機械は動くときに電気的ノイズを発生する。これらの問題の対策としてパ
コンデンサと呼ばれるコンデンサ(0.1uF 程度)をマイコン近くに配置し
たり、必要があればインダクタンスでノイズフィルタを作る。

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並列防止回路と電圧変換回路を備えた電源回路

これらを組み合わせて最終的に図のようになる。2020 年度能代打上の
ために製作した電源系統を簡略化したものである。USB5V、フライトピンの
12V(Pb バッテリー)、LiPo バッテリーの順に優先して電装に供給される。
実際は前述の理由で LiPo が使用できなくなったため機体バッテリー電圧が
低下しバッテリーからの電流は DC-DC コンバータを通さずレギュレータに
直結される。またフライトピンを用いて発射検知をするために PB12V で
FET をスイッチングし、マイコンから PB12V の接続の有無を検知する回路
が追加される。加えてサーボモータを駆動するための 5V をレギュレータの
直前から取り出すことになる。出力の最終段(右端)の LED は電源の有無
を確認するためのものである。

より小規模な電装ではマイコンの開発ボード上に実装されているレギュ
レータを用いることで小型軽量かつ容易に開発を進めることができる。実験
や小規模な打上のための電装であれば Arduino の VIN 端子に角電池を接続
し、基板の 5V、3.3V 端子から取り出してモジュールに供給するのが手軽で
ある。ただし必要な電流が内蔵レギュレータの供給電流を超えないようにす
る。

電源系統で注意すべきこととして、レギュレータや DC-DC コンバータの
供給電流が足りないからと言って並列に接続してはいけない。出力電圧が微
妙に異なっているので逆流してレギュレータを破壊する可能性があるから
である。同様に USB5V とレギュレータで発生した 5V を接続してはいけな
い。また、電池についても製造誤差で微妙に電圧が異なるので特別に並列可
能なものを除いて並列接続してはならない。2.9V と 3.1V のリチウム電池
並列接続した場合、内部抵抗が 0.1Ωでも 2A が流れることになる。実際に
電装製作中にリチウム電池を並列接続し、強塩基性の電解液が吹き出す事例
が発生している。

歴史的にみると以前は集中型の電源で使用する数種類の電圧を発生させ
て各部へ供給する例が多かった。例えばデスクトップ PC 用 ATX 電源では
コンセントの AC100V を 12V、5V、3.3V に変換してメモリ、冷却装置、CPU
などへ供給する。これだと配線が増えて回路が複雑になったり、一部の負荷
が全体に影響しやすくなったりするため、近年では使用する部品の近くで必
要な電圧に変換する例が増えてきた。これを電源の分散化(POL)という。
例えば携帯端末などではカメラに必要な電力はカメラの近くで変換してい
る。表面実装のレギュレータの小型高性能化などによって部品のモジュール
化が進んだためである。現在のスマートフォンなどでは稼働時間を伸ばすた
めにこのレギュレータをより高効率の DC-DC コンバータで置き換えようと
いう取り組みもある。

 

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2 作成の手順


2.1 立案


まずロケットを作るにあたっての大まかな計画が立てられる。打ち上げの目
的(ミッション)、目標高度、使用するエンジン、打ち上げ時期・場所などが定
められると、それらを達成するために必要な重量、サイズなどの要素が決定され
ていく。この時に電装班として注意すべき事項は

  •  電装のサイズ・重量の制限
  • パラシュートなど電装が関わる機構
  • 準備から打ち上げ、回収までにかかる時間

などがある。これ以外にもミッションの達成や新しい機能の実現には電装班と
その他の班の連携が不可欠なので、緊密に情報共有し必要があれば分かりやす
く説明する。
続いて電装班内部で上記に加えて以下のことを協議する。

  • 搭載するセンサの種類
  • 役割分担
  • タイムスケジュール

この他にも同時期に別のプロジェクトが進行していたら共有できる部品や作業
があるかもしれないので、自分が参加しているプロジェクト以外についても把
握しておくと良い。


2.2 選定


立案で大まかな概要が見えてきたら部品の選定に入る。どうしても部品種類
が多くなりがちなので複数人で分担したり電源類、センサ類などで分担したり
してもよい。部品の選定に熟達するのは経験が必要なので、必ず詳しい人にその
選定が妥当かどうかを確認する。説明の都合上選定を先に書いたが、特に電源系
などはその他の部品の消費電流が定まってからでないと部品の選定ができない
のでこの順番通りに進める必要はない。設計や評価の結果、性能が不足している
ことが判明したり、より小型軽量な部品で置き換えられることがわかったりし
た場合柔軟に部品を変更する。


2.2.1 データシート


全ての電子部品にはデータシートと呼ばれるその部品の特性などを記し
たデータシートという文書がメーカーから公開されている。部品を選定する
場合には必ずこのデータシートを確認する癖をつける。英語の場合が多いの
で読みたくなくなるかもしれないがデータシートにはその部品の電気的性
能や寸法だけでなく、製品を使った回路の例や避けるべき事項など有用な情
報が載っていることもある。
最低限以下の事項については確認する。

  • マイコン:動作電圧、消費電流
  • 抵抗:抵抗値、定格電流
  • コンデンサ:電気容量、定格電圧
  • MOSFET:定格電圧・電流、チャンネル、しきい値電圧
  • ダイオード:定格電圧・電流、順方向電圧降下
  • 三端子レギュレータ:入力電圧、出力電圧、最大出力電流、ドロップアウト電圧
  • センサ類:動作電圧、消費電流、通信方式

2.2.2 モジュール類


立案で定めた種類のセンサについて実際にどのメーカーのどの製品を使
うのかを決定する。たとえば 9 軸だけでも Adafruit の MPU9250 や Bosch
の BNO055、ST マイクロの LSM9DS1 など様々な製品がある。それぞれ性
能や通信方式、サイズや値段に違いがあるので適切なものを選定する。また
人気のあるセンサのプログラムはインターネット上で提供されていること
もあるので考慮する。機能が多いものは魅力的だが初期設定などプログラ
ミングが難しくなることもあるので担当者の技量を考慮して選定する。
実際には出回っている製品で性能が足りないということは稀なので、サ
イズと値段、マイコンが扱える通信方式をみて選ぶことになる。後述の代表
的な部品の項も参照すること。


2.2.3 マイコン


センサやアクチュエータを操作するのに十分な IO ポートや性能を持った
マイコンを選定する。開発ボードと呼ばれる周辺回路とマイコンが一体と
なった部品は単体で動作するのでテストしやすい、電源回路などが内蔵さ
れているなどの利点があるが、規模の大きい電装ではスペースの問題が出
てくる事がある。開発ボードではなくマイコン単体で使用する場合、最適化
して全ての性能を引き出すことができるが回路の設計から始めなければな
らないため大変面倒になる。


2.2.4 電源


膨大な選択肢があるため最も選定が難しい部分である。まず電池として
なにが使えるのかを確認する。多くのマイコンは 5V か 3.3V、アクチュエー
タは 5V 程度で動作するので電圧が足りない場合、必要な電圧を確保するた
めに直列にする。以下によく用いられる電池の電圧、特徴を記す。

このうち、Li イオン・LiPo・LiFe については 2020 年現在、能代、伊豆で
の搭載が一部を除いて(カメラの内蔵バッテリー等)禁止されているのでそ
れらには使用できない。重量あたりエネルギーなどから見ると Li 系が最強
なので大変残念だ。代替として一次リチウム電池があるが使い捨てである。
モジュールやアクチュエータで必要な電圧、電流を確保でき、準備~回収
まで動作を続けられるだけの容量を備えた電池を選定する。またフライト
ピンという打ち上げ時に外れる電線を使って打ち上げまでの間外部から電
源を供給すれば機体に搭載する電池はより少なくて済む。モータを動作さ
せる電源とマイコンに供給する電源と別にして信頼性を高めることや、レ
ギュレータと DC-DC コンバータの入力電圧と効率の関係など非常に多く
のことを考えて選定する必要がある。

電池から供給される電圧は多くの場合マイコンやセンサが必要な電圧と
異なっているので電圧を変換する部品を選定する。多くの場合は三端子レ
ギュレータか DC-DC コンバータを用いて電圧を下げることになるはずだ。
この際、モジュールやマイコンが要求する電流に余裕を持って出力できる
部品を選定する。また三端子レギュレータは下げた分の電圧を熱として放
出するのであまりに損失が大きいと電装内部の熱が原因で不具合を起こす。
詳しくは冷却の項を参照されたい。

 

次回→

 

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ロケット電装の作り方(1)

こないだまでバイクばっかいじってたやつがどうしたと言われそう。

実は僕は大学のサークルでロケットの電装(データロガー)を作っている。

後輩向けにまとめたものが2万字を超えるボリュームになってしまって、もったいないのでブログの記事稼ぎに載せてみることにした。

 

だいたいの考え方はロボコン等の回路と同じだが、優先順位や水密など一部ロケットに特有の事項がある。

国内にはいくつか学生ロケット団体があるが「ロケットサークルに入ったけど先輩がなにも教えてくれない‼」という新入生は参考にしてもらうといいかもしれない。

 サークル内部向けに作った資料の焼き直しなので、燃焼班などの固有な名称とか部品選択が偏ってるところがあるがご容赦いただきたい。

 

目次

 

------------------------ロケット電装の作り方(1)------------------------
1 電装とは
 1.1 目的
 1.2 構成
 1.3 目標と優先順位

------------------------ロケット電装の作り方(2)------------------------

2 作成の手順
 2.1 立案
 2.2 選定
  2.2.1 データシート
  2.2.2 モジュール類
  2.2.3 マイコン
  2.2.4 電源

------------------------ロケット電装の作り方(3)------------------------

 2.3 ハードウェアの設計
  2.3.1 電源系統の設計

------------------------ロケット電装の作り方(4)------------------------
  2.3.2 通信系統の設計
  2.3.3 筐体の設計
 2.4 ソフトウェアの設計
  2.4.1 フローチャートの設計
  2.4.2 プロトコルの設計

------------------------ロケット電装の作り方(5)------------------------
 2.5 部品調達
  2.5.1 調達方法
  2.5.2 代表的な部品

------------------------ロケット電装の作り方(6)------------------------
 2.6 作成
  2.6.1 基板作成
  2.6.2 プログラム作成
  2.6.3 筐体作成

------------------------ロケット電装の作り方(7)------------------------
 2.7 評価
  2.7.1 完成した製品に対する評価
  2.7.2 製作の過程に対する評価
3 今後実現したいこと
 3.1 点火装置の改良
 3.2 無線 GSE
 3.3 冷却
 3.4 アクティブ姿勢制御

 

1 電装とは


1.1 目的


電装の目的は大きく分けて記録と駆動の 2 つがある。記録は飛行中のロケット
の位置や高度、速度といった情報を記録して回収することだ。これらのデータは次
のロケットの製作に生かされることになる。また記録を取ること自体が打ち上げ
の目的になる場合もある。記録されるのは数値データだけにとどまらず、ビデオカ
メラによる空撮なども含まれる。また内部の記憶装置だけでなく無線通信機を利
用して飛行中に外部にデータを送信するのも一般的である。

駆動はパラシュートなどの飛行に必要な動作のための動力を適切なタイミング
で提供することだ。機械的機構だけでは例えば打ち上げ n 秒後にパラシュートの
展開といった柔軟な動作は難しいので、ロケットの装備品の中で唯一飛行状態を
感知している電装が動作のタイミングの指示(アクチュエータの制御信号)とエネ
ルギーの供給(電流など)を行う。


1.2 構成


電装はロケットの搭載できる重さ、スペースなどの要因で構成を変化させる。
ロケットの規模ごとに標準的と思われる構成を示す。単語については後述。

・ 最小構成(~G 型モデルロケット、ペットボトルロケット等)

    マイコン、9 軸、気圧、記録装置

・陸打ち構成(J~K 型エンジン機、700m 程度)

    マイコン、9 軸、気圧、記録装置、カメラ、アクチュエータ

・海打ち構成(K~L 型エンジン機、ハイブリッドエンジン機、1000m 以上)

    マイコン、9 軸、気圧、GPS、記録装置、通信装置、水密、カメラ、アク
チュエータ

CanSat(ランバック機)

    SBC、電子コンパスGPS、記録装置、通信装置、カメラ、アクチュエー

規模が大きくなるほどより高度で複雑な構成となることがわかるだろう。マイ
コンとはマイクロコントローラの略で MCU とも呼び、CPU やメモリなどが一体
となったもので電装の頭脳である。9 軸とはジャイロセンサ、加速度センサ、磁
気センサ各 3 軸が 1 体となった部品で、マイコンに観測値を送信する。気圧とは
気圧センサのことで同様にマイコンに情報を送信する。大気圧力の変化から現在
高度が計算できるので、高度の記録やパラシュートを電装で展開する際には極め
て重要な部品となる。GPS とは水平方向の位置を記録するためのセンサであり
通信装置で緯度経度を地上側に送信することで落下後のロケットを回収するこ
とができる。記録装置とは観測値を記録するための装置で FLASH や EEPROM
などもあるが、速度容量の面から microSD カードを使うのが普通である。通信
装置とは無線を用いて地上側にデータを送信する部品である。水密については後
で詳しく述べるが防水されたケースのことで、海に落下したロケットの電装が浸
水しないためのものである。カメラは飛行中の映像などを記録する装置で、電装
と連携してなにかをすることは今の所ない。アクチュエータとはモータやソレノ
イドといった電気で物理的な動作を生じる装置である。パラシュートの展開時な
どに用いる。

おまけとして CanSat の構成も書いておいたがロケット電装と少々趣が異なる
ことに注意されたい。SBC(Single Board Computer)とはラズパイのような IO
ポートと OS を持った超小型のコンピュータのことである。CanSat では記録の
他に GPS やカメラから自己位置を推定し、目的の場所までたどり着くためによ
り高い処理能力が必要となるためマイコンではなく SBC を搭載する。またアク
チュエータにも歩行用の脚や、走行用のタイヤなどロケットより高度で複雑な制
御が求められる。反面ロケットのようなコンマ何秒の処理速度は求められないた
めソフトウェアの設計にも違いが出てくる。


1.3 目標と優先順位


ここでは最も機能の多い海打ち機体を念頭に説明する。ロケット電装におい
て最も重要な目標は打ち上げ前、飛行中、落下中、着水後を通して確実に動作す
ることである。これは電装が途中で停止してしまったりするとパラシュート開
傘などに問題が発生し、ロケット本体だけでなく地上側にも影響する重大な事
故が発生する可能性があるためである。この確実に動作することを「信頼性が高
い」という。このためには様々な条件でテストを繰り返して不具合の発生原因を
特定し、それを解決していくことが必要である。また、なにか問題(たとえば通
信の切断など)が起こったとしても動作を継続できることが求められる。このよ
うな問題が発生しても動作を継続できる性能を「冗長性が高い」という。冗長性
を高めるためソフトウェア、ハードウェアが連携して“自身が正常に動作してい
ない”ことを検出できる仕組みを備える必要がある。この一つの手段としてタイ
ムアウトについて後述する。実際のロケットや航空機、サーバなどではメイン
系・サブ系、プライマリ・セカンダリとして非常時に切り替わる仕組みを持って
いたり、同一のシステムを複数備える二重化、三重化を行ったりしている。電装
が不安定になる要因としては一般的な順に電池切れ、衝撃による断線・接触不良、
水密への浸水、ソフトウェアのエラー、瞬間的な電力不足、電気系統のノイズな
どがあげられる。通信の切断を含めなかったのは、通信は切れるのが当たり前な
のでそれで問題が発生するとしたら設計の不良だからである。

続いて重要な要素は小型軽量さである。エンジンパワーを 20%アップするの
は大変なことだが機体重量を(必要なエネルギーが同等となるように)17%削
減するのは比較的容易である。使用したい部品などの重量が機能に対してあま
りに大きい場合には軽量な代替品を検討したり搭載を諦めたりすることも必要
である。しかし電子部品は多くが軽量なので重量が問題となることは少ない。む
しろ小型化のほうが重要である。これは一見関係がなさそうに思われるかもし
れないが実際の水密を含めた電装を手にとって見るとわかるだろう。電装部の
重量の多くを占めているのは基板や部品ではなく水密の構造(カプラ、アクリル
チューブ)や電池類である。縦 4 段基板の電装を 2 枚にすればアクリルチュー
ブの長さが減って大幅な軽量化となる。また基板の小径化によって機体直径を
100mm から 90mm にできれば前方投影面積は約 20%の減となる。また機体の
構造にもよるが、アクリルチューブを短くすることでロケット全体の剛性向上
にも効果がある。小型軽量化の手段としては、より小型の部品を用いる(リード
部品→チップ部品)、配線密度を上げる(ユニバーサル基板裏面に手配線→PCB
基板 4 層)、部品配置の工夫(パズルをイメージしてほしい)などがある。この
他に電源系統の高効率化も挙げられる。たとえばバッテリーの 11V をマイコン
の 3.3V に変換する際、変換効率 30%のレギュレータではなく 98%の DC-DC
コンバータを使えば(回路が複雑になるのでその分も考慮する必要があるが)バ
ッテリー容量を半分に減らすことができる。勘違いしてはいけないのは、信頼性
の優先順位の方が上であるということである。すなわち軽量化のために安全の
ための部品を削減したり、バッテリーが不十分になったりしては本末転倒であ
る。むしろ小型軽量化によって生じた余裕を信頼性に活かすくらいで良い(バッ
クアップの搭載やバッテリー容量増加など)。

続いて機能性である。これはどれだけ多くの機能を持っているかということ
で、搭載しているセンサの種類やその精度、観測できるデータの量などである。
これは上記の小型軽量性とトレードオフであり、そのロケットの目的によって
は(高度は目指さずデータ収集を主目標とするなど)こちらが優先される場合も
ある。これはハードウェア的にどれだけ多くのセンサを搭載しているかだけで
なく、ソフトウェアの高速化や表示のわかりやすさなども関係してくる。ソフト
ウェアの高速化や高度化は重量への影響がないので、打ち上げ直前以外でも通
年して行うべき改良である。エンジンパワーを 20%アップするのは大変なこと
だがソフトウェアは工夫次第で 10 倍、100 倍の高速化、高度化が可能なので、
プログラムは目立たない、地味などという印象を捨てて取り組んでほしい。

最後にコストパフォーマンスである。ロケット開発にはお金を惜しむべきで
ない、ケチくさいことをするなという人があるがこれは大きな誤りである。本当
に開発費が湯水のように湧いてくるならそれに越したことはないが実際はそう
ではない。高価な電装が数機用意できるだけでは水没試験や落下試験など過激
な試験をやる気が起きないし、もしかしたら試験をした(ダメージを負った)電
装で打ち上げに挑むことになりかねない。できることなら 10 機ほど作成して水
没、衝撃、振動などあらゆる試験を実施し、本番もメイン+バックアップ 2 機か
ら選べるくらいだと最高である。また値段を下げることで試作回数を増やすこ
とができる。試作→評価→改善→試作のサイクルを何度も繰り返して信頼性を
向上させることが重要である。肝心の方法についてだが、後述する調達の工夫
(まとめて大量に購入する、購入する先を変更する)、設計の工夫(基板枚数や
部品点数を減らす)、電子班全体での戦略的取り組み(基板の規格化共通化、ス
トックの管理)などが挙げられる。

高性能な部品はほぼ例外なく重く大きく高価になるので、用途に合った過不
足のない部品の選定が小型軽量化と低コスト化の鍵となる。

 

続き→

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VTR250のプラグを交換した話

本来であれば3,000~5,000kmごとに交換すべきらしいのですが、実は今回10,000km近く走ってしまっています。

問題が出ているわけではないですが(出ていたらそれはそれで大変だけど)、コマメに交換したほうがいいと思います。

取り外し

VTRはV型2気筒の前後配置なので後部プラグの取り外しが死ぬほど面倒です。

プラグの状態をチェックするだけなら前側だけ外せばいいので簡単ですが、億劫になりがちです。

 

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前シリンダーのプラグです。

たまった砂がシリンダー内に入らないようプラグコードをつけたまま、外した後それぞれエアダスターで吹いておきます。

 

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車載工具のプラグ外しで取り外します。

かなり深いのでVT系用の専用品じゃないと厳しいかもしれません。

 

話が前後するので後ろに回しますが、異物が入らないように外したら速やかに新しいプラグを取り付けてしまったほうがいいと思います。

 

続いて後部プラグを取り外します。

シート、サイドカバーを取り外します。

タンクを浮かせるために前側のボルトを外れる半分くらいまで緩め、後ろ側を固定しているボルトを外します。

後ろ側はT40のトルクスレンチが必要です。

 

 

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写真中央の赤い部分が後部プラグの位置です。

タンクを持ち上げてできたスペースに手を突っ込んで(両手がふさがって写真が撮れない)プラグコードを左右にウニウニ引っ張ってコードを外します。

同じくエアダスターを吹いて隙間から工具を差し込み回すしていきます。

工具が長いと引っかかり、短いと回せず、端の形状によってはトルクが掛けられないというとんでもない場所です。

 

その点、レッドバロンさんで買った時にいただいた車載工具はよくできてまして、途中で折れ曲がるので隙間から差し込みやすく、端がスパナで回せるのでトルクがかけやくなっております。

ちょうどいい工具がないと多分タンク全外しになると思います。

 

プラグ外しを引き抜いて、プラグが付いてくればラッキーです。

ついてこなかったら写真の隙間から押し上げつつ、工具を差し込んだルートを通って取り出します。

 

交換

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取り外した前プラグです。

後ろ側は雨が当たらないので綺麗なままでしたが、前のプラグ位置は雨水が溜まりやすいので特に下面の錆が酷いです。

ネジまで到達していないので機能上は問題ないのでしょうがいい気持ちはしないですね。

プラグの焼け具合に特に問題はありませんでしたので番手は変えずに交換します(FIだからというのもあるかも)。

 

 これを使います。

レストア中のCDKのパーツとまとめてWebikeで発注しました。

 

みんな大好きイリジウムプラグ。

違いがわからなそうなので使ってません。

機会があったら使ってみたいです。

 

取り付けは取り外しの逆の手順で進めます。

後部プラグをウニウニしてはめ込むのが難しいのでがんばって。

 

感想

交換した結果ですが、始動までにセルが回る回数が減ったり、吹け上がりが良くなりました(たぶん)。

シフトダウンした際に回転数を合わせやすくなった気がします。

まぁ消耗品と思って気づいたら交換してあげたいと思います。

VTR250のメーターカバーを交換した話

やらかした

VTR250を地下駐輪場で倒してしまった。

バイク用エレベーターのボタンを押そうと少し離れた際にスタンドが完全に出ていなかったらしい。

 

後ろからガシャーンと音がして顔は真っ青、冷や汗ダラダラ。

今までも立ちごけ等したことはあったが、いずれも「お?おぉ…わったったったっ‼」みたいな踏ん張り負けみたいな倒し方だったので深刻なダメージを負ったことはなかった。

 

幸い近くに停まっていたBMWのアドベンチャーさんのナンバーをかすめて、ギリギリセーフの自損事故とあいなった。

 

とりあえず起こして損傷チェック。

VTRはハンドルが倒れる方向に向いていれば、クラッチレバーかブレーキレバーが曲がるだけで済むのだが、今回は逆向きで衝撃をメーター部で受けたらしい。

プラスチックの取り付け基部が割れて基板が露出している。

 

とりあえず走っても落ちるような状態ではないので自走してお家に持って帰る。

 

 

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うーん、2つの膨らみの間のカバーと内部の基板を固定しているパーツが割れている。

現実逃避のためにちょっと離れてまた見たりしてみたが当然直ってるはずもない。

 

しかたがないので直す方法を考える。

 

①お世話になっているレッドバロンに持ち込む
一番確実な方法だろう。そんなにボッタクられるわけでもない(と思っている)し何も考えなくて良い。予約を入れて持ち込む時間がかかるのがデメリットか。

 

ヤフオクで部品を落として取り付ける

安い(かもしれない)方法。しかし一番時間がかかりそうだし、そもそも人気車種でもないのでカバーだけなんていうピンポイントな出品は存在しないのでボツ。

 

③純正取り寄せ

値段は①と②の間くらい。時間は多分最速だろう。CDKのレストアのおかげで大抵の工具は揃っているし純正部品の注文も慣れている。

 

最終的に③にした。

通学にも買い物にも出勤にも使っているのでとにかく早く直らんと困るのだ。

 

というわけで2009年式VTR250のパーツリストを探す。

最近はHONDA公式がパーツリストを公開してくれてるらしいんだけど、その対象には入ってない。

「VTR250 パーツリスト pdf」で検索したら海外のサイトが見つかった。

www.bike-parts-honda.com

書いてて思ったんだけどこれ個人サイトなのか海外ホンダ公式なのかよくわからんな。

まあ「車種名 パーツリスト」で検索して画像検索見ながら探すとだいたい見つかる。

 

というわけでメーターカバーと内部のケースの部品型番を探す。

見つかったらwebikeの純正欄からホンダを選択して型番入力。

まぁCDKと違ってそこまで古くないので当然在庫はあるが取り寄せになるらしい。

速攻で注文する。

 

外側のカバーが1000円、内側のカバーが7000円。

貧乏大学生には安い買い物じゃないけど買わないとどこにもいけないのでショウガナイネ。

 

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届いたので分解していく。

まぁ見えてるボルトを4箇所外して、回せるビスを回すだけなので大して難しいことはない。

豆電球の類は差し込んであるだけなので全力で引っ張れば抜ける(抜けない)。

配線が千切れそうで怖かった。

 

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分解した。

ちなみに今回交換したのは左下の白いパーツ「37130-KFK-631」と右下の黒いパーツ「37135-MCE-H51」。

 

ついでにメーターの透明部分に曇り止めスプレーを塗っておく。

 

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メーターを外した状態のVTR。

小さいメーターに交換したらこんな感じなんだろうか。

これでセパハンとかにしたらそれはそれで……。

 

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元通りに組み立てていく。

メーター類と基板が無事で何よりだった。

基板は露出していたので危機一髪。

 

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はい‼元通り‼

 

以後、スタンドはしっかり確認しようと思います。