工学男子の日常

モノづくりが好きな男子の日記です。

ロケット電装の作り方(1)

こないだまでバイクばっかいじってたやつがどうしたと言われそう。

実は僕は大学のサークルでロケットの電装(データロガー)を作っている。

後輩向けにまとめたものが2万字を超えるボリュームになってしまって、もったいないのでブログの記事稼ぎに載せてみることにした。

 

だいたいの考え方はロボコン等の回路と同じだが、優先順位や水密など一部ロケットに特有の事項がある。

国内にはいくつか学生ロケット団体があるが「ロケットサークルに入ったけど先輩がなにも教えてくれない‼」という新入生は参考にしてもらうといいかもしれない。

 サークル内部向けに作った資料の焼き直しなので、燃焼班などの固有な名称とか部品選択が偏ってるところがあるがご容赦いただきたい。

 

目次

 

------------------------ロケット電装の作り方(1)------------------------
1 電装とは
 1.1 目的
 1.2 構成
 1.3 目標と優先順位

------------------------ロケット電装の作り方(2)------------------------

2 作成の手順
 2.1 立案
 2.2 選定
  2.2.1 データシート
  2.2.2 モジュール類
  2.2.3 マイコン
  2.2.4 電源

------------------------ロケット電装の作り方(3)------------------------

 2.3 ハードウェアの設計
  2.3.1 電源系統の設計

------------------------ロケット電装の作り方(4)------------------------
  2.3.2 通信系統の設計
  2.3.3 筐体の設計
 2.4 ソフトウェアの設計
  2.4.1 フローチャートの設計
  2.4.2 プロトコルの設計

------------------------ロケット電装の作り方(5)------------------------
 2.5 部品調達
  2.5.1 調達方法
  2.5.2 代表的な部品

------------------------ロケット電装の作り方(6)------------------------
 2.6 作成
  2.6.1 基板作成
  2.6.2 プログラム作成
  2.6.3 筐体作成

------------------------ロケット電装の作り方(7)------------------------
 2.7 評価
  2.7.1 完成した製品に対する評価
  2.7.2 製作の過程に対する評価
3 今後実現したいこと
 3.1 点火装置の改良
 3.2 無線 GSE
 3.3 冷却
 3.4 アクティブ姿勢制御

 

1 電装とは


1.1 目的


電装の目的は大きく分けて記録と駆動の 2 つがある。記録は飛行中のロケット
の位置や高度、速度といった情報を記録して回収することだ。これらのデータは次
のロケットの製作に生かされることになる。また記録を取ること自体が打ち上げ
の目的になる場合もある。記録されるのは数値データだけにとどまらず、ビデオカ
メラによる空撮なども含まれる。また内部の記憶装置だけでなく無線通信機を利
用して飛行中に外部にデータを送信するのも一般的である。

駆動はパラシュートなどの飛行に必要な動作のための動力を適切なタイミング
で提供することだ。機械的機構だけでは例えば打ち上げ n 秒後にパラシュートの
展開といった柔軟な動作は難しいので、ロケットの装備品の中で唯一飛行状態を
感知している電装が動作のタイミングの指示(アクチュエータの制御信号)とエネ
ルギーの供給(電流など)を行う。


1.2 構成


電装はロケットの搭載できる重さ、スペースなどの要因で構成を変化させる。
ロケットの規模ごとに標準的と思われる構成を示す。単語については後述。

・ 最小構成(~G 型モデルロケット、ペットボトルロケット等)

    マイコン、9 軸、気圧、記録装置

・陸打ち構成(J~K 型エンジン機、700m 程度)

    マイコン、9 軸、気圧、記録装置、カメラ、アクチュエータ

・海打ち構成(K~L 型エンジン機、ハイブリッドエンジン機、1000m 以上)

    マイコン、9 軸、気圧、GPS、記録装置、通信装置、水密、カメラ、アク
チュエータ

CanSat(ランバック機)

    SBC、電子コンパスGPS、記録装置、通信装置、カメラ、アクチュエー

規模が大きくなるほどより高度で複雑な構成となることがわかるだろう。マイ
コンとはマイクロコントローラの略で MCU とも呼び、CPU やメモリなどが一体
となったもので電装の頭脳である。9 軸とはジャイロセンサ、加速度センサ、磁
気センサ各 3 軸が 1 体となった部品で、マイコンに観測値を送信する。気圧とは
気圧センサのことで同様にマイコンに情報を送信する。大気圧力の変化から現在
高度が計算できるので、高度の記録やパラシュートを電装で展開する際には極め
て重要な部品となる。GPS とは水平方向の位置を記録するためのセンサであり
通信装置で緯度経度を地上側に送信することで落下後のロケットを回収するこ
とができる。記録装置とは観測値を記録するための装置で FLASH や EEPROM
などもあるが、速度容量の面から microSD カードを使うのが普通である。通信
装置とは無線を用いて地上側にデータを送信する部品である。水密については後
で詳しく述べるが防水されたケースのことで、海に落下したロケットの電装が浸
水しないためのものである。カメラは飛行中の映像などを記録する装置で、電装
と連携してなにかをすることは今の所ない。アクチュエータとはモータやソレノ
イドといった電気で物理的な動作を生じる装置である。パラシュートの展開時な
どに用いる。

おまけとして CanSat の構成も書いておいたがロケット電装と少々趣が異なる
ことに注意されたい。SBC(Single Board Computer)とはラズパイのような IO
ポートと OS を持った超小型のコンピュータのことである。CanSat では記録の
他に GPS やカメラから自己位置を推定し、目的の場所までたどり着くためによ
り高い処理能力が必要となるためマイコンではなく SBC を搭載する。またアク
チュエータにも歩行用の脚や、走行用のタイヤなどロケットより高度で複雑な制
御が求められる。反面ロケットのようなコンマ何秒の処理速度は求められないた
めソフトウェアの設計にも違いが出てくる。


1.3 目標と優先順位


ここでは最も機能の多い海打ち機体を念頭に説明する。ロケット電装におい
て最も重要な目標は打ち上げ前、飛行中、落下中、着水後を通して確実に動作す
ることである。これは電装が途中で停止してしまったりするとパラシュート開
傘などに問題が発生し、ロケット本体だけでなく地上側にも影響する重大な事
故が発生する可能性があるためである。この確実に動作することを「信頼性が高
い」という。このためには様々な条件でテストを繰り返して不具合の発生原因を
特定し、それを解決していくことが必要である。また、なにか問題(たとえば通
信の切断など)が起こったとしても動作を継続できることが求められる。このよ
うな問題が発生しても動作を継続できる性能を「冗長性が高い」という。冗長性
を高めるためソフトウェア、ハードウェアが連携して“自身が正常に動作してい
ない”ことを検出できる仕組みを備える必要がある。この一つの手段としてタイ
ムアウトについて後述する。実際のロケットや航空機、サーバなどではメイン
系・サブ系、プライマリ・セカンダリとして非常時に切り替わる仕組みを持って
いたり、同一のシステムを複数備える二重化、三重化を行ったりしている。電装
が不安定になる要因としては一般的な順に電池切れ、衝撃による断線・接触不良、
水密への浸水、ソフトウェアのエラー、瞬間的な電力不足、電気系統のノイズな
どがあげられる。通信の切断を含めなかったのは、通信は切れるのが当たり前な
のでそれで問題が発生するとしたら設計の不良だからである。

続いて重要な要素は小型軽量さである。エンジンパワーを 20%アップするの
は大変なことだが機体重量を(必要なエネルギーが同等となるように)17%削
減するのは比較的容易である。使用したい部品などの重量が機能に対してあま
りに大きい場合には軽量な代替品を検討したり搭載を諦めたりすることも必要
である。しかし電子部品は多くが軽量なので重量が問題となることは少ない。む
しろ小型化のほうが重要である。これは一見関係がなさそうに思われるかもし
れないが実際の水密を含めた電装を手にとって見るとわかるだろう。電装部の
重量の多くを占めているのは基板や部品ではなく水密の構造(カプラ、アクリル
チューブ)や電池類である。縦 4 段基板の電装を 2 枚にすればアクリルチュー
ブの長さが減って大幅な軽量化となる。また基板の小径化によって機体直径を
100mm から 90mm にできれば前方投影面積は約 20%の減となる。また機体の
構造にもよるが、アクリルチューブを短くすることでロケット全体の剛性向上
にも効果がある。小型軽量化の手段としては、より小型の部品を用いる(リード
部品→チップ部品)、配線密度を上げる(ユニバーサル基板裏面に手配線→PCB
基板 4 層)、部品配置の工夫(パズルをイメージしてほしい)などがある。この
他に電源系統の高効率化も挙げられる。たとえばバッテリーの 11V をマイコン
の 3.3V に変換する際、変換効率 30%のレギュレータではなく 98%の DC-DC
コンバータを使えば(回路が複雑になるのでその分も考慮する必要があるが)バ
ッテリー容量を半分に減らすことができる。勘違いしてはいけないのは、信頼性
の優先順位の方が上であるということである。すなわち軽量化のために安全の
ための部品を削減したり、バッテリーが不十分になったりしては本末転倒であ
る。むしろ小型軽量化によって生じた余裕を信頼性に活かすくらいで良い(バッ
クアップの搭載やバッテリー容量増加など)。

続いて機能性である。これはどれだけ多くの機能を持っているかということ
で、搭載しているセンサの種類やその精度、観測できるデータの量などである。
これは上記の小型軽量性とトレードオフであり、そのロケットの目的によって
は(高度は目指さずデータ収集を主目標とするなど)こちらが優先される場合も
ある。これはハードウェア的にどれだけ多くのセンサを搭載しているかだけで
なく、ソフトウェアの高速化や表示のわかりやすさなども関係してくる。ソフト
ウェアの高速化や高度化は重量への影響がないので、打ち上げ直前以外でも通
年して行うべき改良である。エンジンパワーを 20%アップするのは大変なこと
だがソフトウェアは工夫次第で 10 倍、100 倍の高速化、高度化が可能なので、
プログラムは目立たない、地味などという印象を捨てて取り組んでほしい。

最後にコストパフォーマンスである。ロケット開発にはお金を惜しむべきで
ない、ケチくさいことをするなという人があるがこれは大きな誤りである。本当
に開発費が湯水のように湧いてくるならそれに越したことはないが実際はそう
ではない。高価な電装が数機用意できるだけでは水没試験や落下試験など過激
な試験をやる気が起きないし、もしかしたら試験をした(ダメージを負った)電
装で打ち上げに挑むことになりかねない。できることなら 10 機ほど作成して水
没、衝撃、振動などあらゆる試験を実施し、本番もメイン+バックアップ 2 機か
ら選べるくらいだと最高である。また値段を下げることで試作回数を増やすこ
とができる。試作→評価→改善→試作のサイクルを何度も繰り返して信頼性を
向上させることが重要である。肝心の方法についてだが、後述する調達の工夫
(まとめて大量に購入する、購入する先を変更する)、設計の工夫(基板枚数や
部品点数を減らす)、電子班全体での戦略的取り組み(基板の規格化共通化、ス
トックの管理)などが挙げられる。

高性能な部品はほぼ例外なく重く大きく高価になるので、用途に合った過不
足のない部品の選定が小型軽量化と低コスト化の鍵となる。

 

続き→

kogakudanshi.hatenablog.jp