工学男子の日常

モノづくりが好きな男子の日記です。

ロケット電装の作り方(3)

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2.3 ハードウェアの設計


部品の選定が完了したら設計に入る。ここで言う設計とは簡単に言えばそれぞ
れの部品の端子をどのように接続するかを決めることである。量が膨大になるた
めここには詳しくは記載しないが、回路を考えて回路図を描いていく。この作業
は後述する基板作成で使うソフトでやってもいいが、修正回数が多いので最初は
手書きのほうがイメージをつかみやすい。

基本的には電源系統からマイコンとモジュールへの電源供給ライン、マイコン
からモジュールへの通信ラインを配置していくことになる。
どの部品をどう配線するか決まったら回路作成ソフトで回路図を作成して
いく。Autodesk 社の回路作成ソフト EAGLE は学生であれば無料で使えて強力
な自動配線を備えている。標準のライブラリに使いたい部品がない場合は(とい
ってもよほど基本的な抵抗やコンデンサでないかぎり入っていないのだが)自作
することになる。


2.3.1 電源系統の設計


電源系統の設計は流れる電流が大きいのでミスをすると基板が燃えだす
などの事故が発生するから注意して行う。多くの場合、電池以外にも電源を
供給する線があるのが普通だからその順番にも留意する。例えば電池、フラ
イトピン、USB 端子を搭載した電装では、なるべく電池を温存するため USB
端子、フライトピン、電池の順で優先して流れる設計とする。特に開発ボー
ドを使用する場合、USB からの電源と基板に供給する電池の電流が衝突し
て発煙する事故がよく発生している。ダイオードMOSFET を用いて、あ
る電源から電流が供給されているときは別の電源経路が遮断される設計と
する。

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ダイオードを用いた逆流防止回路

 

図はIN1とIN2に同時に電圧を加えた場合の逆流を防止する回路である。
OUT に出力される電圧は高い方の電圧になり電流もそちらから供給される。
そのため例えば 6V の電池と USB の 5V を IN1、IN2 にそれぞれ繋いだ場合、
電池の方ばかり消費されてしまう。また OUT に出力される電圧はダイオー
ドの順方向降下電圧分(1V 程度)下がるのでその分高い電圧を供給する必
要があり、流れた電流に応じて損失も大きくなってしまう。

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FETを用いた片方を優先して流す低損失な逆接防止回路

図は IN1 を IN2 に優先して OUT から出力する回路である。IN1 に電圧が
供給されていない時、Pch MOSFET のゲートは抵抗 R1(10kΩ程度)によ
ってプルダウン(GND に接続)されドレイン・ソース間を電流が流れるよ
うになり OUT から IN2 の電圧が供給される。この状態で電流が流れたとき
抵抗は FET の ON 抵抗(0.1Ω程度)2 つ分だけなので損失が極めて少なく
なる。IN1 に電圧が供給されている時、FET のゲート電圧が高くなり FET は
遮断され、ダイオード D1 を通して OUT に IN1 からの電流が流れる。ただ
しこのときダイオードの順方向降下電圧だけ IN1 の電圧が降下して OUT に
出力される。この場合の損失は順方向降下電圧×電流である。この回路はIN1
に外部からの電源、IN2 に機体のバッテリーをつなぐことを想定しているの
で IN1 の損失は気にせず IN2 の損失を極力減らすようにできている。当然
ながらこれらの FET やダイオードは流れる電流やかかる電圧に十分対応で
きる製品を選ぶ必要がある。

続いて電圧の変換をする部分を設計する。基本的に DC-DC コンバータを
使うのは 1A 超えるような大電流を変換する場合や 12V から 3.3V のような
目的とする電圧が大幅に離れている場合のみである。マイコンとモジュール
のたかだか 200mA 程度であれば三端子レギュレータがサイズ、重量、供給
される電圧の安定性などの面で勝る。

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ADP3338三端子レギュレータを用いた電圧変換回路

図は三端子レギュレータ ADP3338 を用いて 8V~3.6V の入力電圧を 3.3V
に変換する回路である。三端子レギュレータはその名の通り 3 つの端子のう
ち入力端子に電源を、出力端子に出力を、GND 端子に GND を接続するだけ
で希望の電圧が得られる便利な部品である。C1 は入力電圧を安定させるコ
ンデンサ、C2 は変換した電圧を安定させるコンデンサである。特に C2 のコ
ンデンサについてはレギュレータの仕組み上、容量や応答速度が定められて
いる場合があるのでデータシートのアプリケーション欄を確認する。

ADP3338 の場合 1uF のコンデンサが指定されている。レギュレータには内
部の損失のため目的の電圧よりある程度高い電圧を供給してやる必要があ
る。この電圧のことを内部で降下する電圧という意味でドロップアウト電圧
という。このドロップアウト電圧が低いレギュレータを使うとより低い電源
電圧を用いることができる。つまり直列する電池の数を減らすことができる
かもしれないということである。ここには記載しないが近年では DC-DC コ
ンバータでもレギュレータサイズのものが登場してきている。

https://akizukidenshi.com/img/goods/C/M-11188.jpg

三端子DC/DCレギュレータ 5V BP5293−50: 半導体 秋月電子通商-電子部品・ネット通販

https://akizukidenshi.com/img/goods/C/M-13536.jpg

超高効率DC−DCコンバーター 5V1A M78AR05−1: 電源一般 秋月電子通商-電子部品・ネット通販

 

上はレギュレータに近い大きさを持つ超小型 DC-DC コンバータの例で
ある。ピン配置が三端子レギュレータと共通としてあるのでコイルやコント
ローラについて知らなくとも容易に置き換えが可能である。DC-DC の特徴
でもあるが入力範囲は 6.5~32V と幅広く、1A の出力が可能で変換効率は
90~94%に達する。レギュレータはその仕組み上電源電圧が高いほど損失が
増える特性があるので、特別に電池容量に気を使う用途や大電流を扱いたい
場合は DC-DC コンバータの採用を検討してみてもいいかもしれない。
このようにして変換された電流はマイコンやアクチュエータに供給され
るわけだが、そのままでは瞬間的に消費電流が増えた時に電圧が降下して最
マイコンの再起動などを引き起こす。またモータのようなコイルを持つ動
作機械は動くときに電気的ノイズを発生する。これらの問題の対策としてパ
コンデンサと呼ばれるコンデンサ(0.1uF 程度)をマイコン近くに配置し
たり、必要があればインダクタンスでノイズフィルタを作る。

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並列防止回路と電圧変換回路を備えた電源回路

これらを組み合わせて最終的に図のようになる。2020 年度能代打上の
ために製作した電源系統を簡略化したものである。USB5V、フライトピンの
12V(Pb バッテリー)、LiPo バッテリーの順に優先して電装に供給される。
実際は前述の理由で LiPo が使用できなくなったため機体バッテリー電圧が
低下しバッテリーからの電流は DC-DC コンバータを通さずレギュレータに
直結される。またフライトピンを用いて発射検知をするために PB12V で
FET をスイッチングし、マイコンから PB12V の接続の有無を検知する回路
が追加される。加えてサーボモータを駆動するための 5V をレギュレータの
直前から取り出すことになる。出力の最終段(右端)の LED は電源の有無
を確認するためのものである。

より小規模な電装ではマイコンの開発ボード上に実装されているレギュ
レータを用いることで小型軽量かつ容易に開発を進めることができる。実験
や小規模な打上のための電装であれば Arduino の VIN 端子に角電池を接続
し、基板の 5V、3.3V 端子から取り出してモジュールに供給するのが手軽で
ある。ただし必要な電流が内蔵レギュレータの供給電流を超えないようにす
る。

電源系統で注意すべきこととして、レギュレータや DC-DC コンバータの
供給電流が足りないからと言って並列に接続してはいけない。出力電圧が微
妙に異なっているので逆流してレギュレータを破壊する可能性があるから
である。同様に USB5V とレギュレータで発生した 5V を接続してはいけな
い。また、電池についても製造誤差で微妙に電圧が異なるので特別に並列可
能なものを除いて並列接続してはならない。2.9V と 3.1V のリチウム電池
並列接続した場合、内部抵抗が 0.1Ωでも 2A が流れることになる。実際に
電装製作中にリチウム電池を並列接続し、強塩基性の電解液が吹き出す事例
が発生している。

歴史的にみると以前は集中型の電源で使用する数種類の電圧を発生させ
て各部へ供給する例が多かった。例えばデスクトップ PC 用 ATX 電源では
コンセントの AC100V を 12V、5V、3.3V に変換してメモリ、冷却装置、CPU
などへ供給する。これだと配線が増えて回路が複雑になったり、一部の負荷
が全体に影響しやすくなったりするため、近年では使用する部品の近くで必
要な電圧に変換する例が増えてきた。これを電源の分散化(POL)という。
例えば携帯端末などではカメラに必要な電力はカメラの近くで変換してい
る。表面実装のレギュレータの小型高性能化などによって部品のモジュール
化が進んだためである。現在のスマートフォンなどでは稼働時間を伸ばすた
めにこのレギュレータをより高効率の DC-DC コンバータで置き換えようと
いう取り組みもある。

 

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