工学男子の日常

モノづくりが好きな男子の日記です。

ロケット電装の作り方(7)

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kogakudanshi.hatenablog.jp

 2.7 評価


電装が全て出来上がってから評価を行うのではなく、回路が完成したら回路の評価、
ソフトウェアが完成したらソフトウェアの評価というように細かいステップごとに
行うとよい。製作と評価は歩くときの右足と左足のようなものであって、問題がある
ところは改善してさらに評価を行う。評価には完成した製品に対する評価と製作の過
程に対する評価がある。


2.7.1 完成した製品に対する評価


実際に運用する環境に近い状態で動作させてみて、各機能が適切に動作する
かを確認する。例えば電装からパラシュートを操作するロケットであれば、正し
く発射を検知して正しいタイミングで開傘するかを確認する。また 1.3 目標と優
先順位で述べた観点から評価を行う。加えて可能であれば想定される環境から
外れた状態での試験も行う。猛暑の日中でも排熱が十分であるか、センサが外れ
た、故障した場合にきちんと対処できるか等である。これらの試験を行うことで
幅広い環境で運用することができるようになるだけでなく、想定される環境に
おいてもより高い信頼性を確保できる。


これらの試験で完成した製品に問題があった場合、打ち上げまでまだ時間が
あれば適切な段階まで戻って製作手順を繰り返す。ハードウェアでは急な設計
変更は困難を伴うので各ステップを慎重に実行するとともに、問題点を早急に
潰していかなければならない。例えば基板作成なら基板が完成した時点で各種
評価を行って製作の最終段階で問題が発生するのを避けるようにする。


2.7.2 製作の過程に対する評価


これはどちらかというと次に電装を作成するときのための作業である。製作の
過程において問題はなかったかを確認する。製作の途中で失敗した、失敗しそう
になったという情報を記録しておくことで次回、または別の人が作業に臨む際に
事故を未然に防ぐことにつながる。また製作過程で資金、時間、人員に無駄が発
生していなかったかをチェックする。

 

ここからの話はあくまで私の所属している団体での話です。


3 今後実現したいこと


3.1 点火装置の改良


現在使用されている点火装置は AC100V インバータにネオン管用 1kV 高電圧発生
機を使用したものである。これを軽量でさらに信頼性の高いもので置き換える。詳し
くは燃焼班の資料を参考にしてほしいが、イグナイタと呼ばれる端をカットした 2 軸
ビニール線の端部でアークを起こす回路を作成すれば良い。GSE で使用されている
鉛蓄電池を電源に使用するのが現実的であろう。昇圧回路としては DC-DC コンバー
タ、高周波トランス、イグニッションコイル、コッククロフト・ウォルトン回路など
が考えられる。


3.2 無線 GSE


現在使用されている有線での GSE 制御を無線に置き換える。通信ケーブルの敷設、
収納が不要になるので荷物が減る、展開時間の削減といったメリットがある。点火装
置もそうだが燃焼班の機材は信頼性が特に重要である。無線が不調の場合に有線で
の使用もできるようにしておく必要がある。また作業者が間違いを起こしにくい、起
こせない、間違っても事故にならない設計をする必要がある。例えばそれぞれ配線の
色分け、配線を間違うと刺さらない端子、逆接防止回路などである。


3.3 冷却


電子回路に電流を流すと多かれ少なかれ熱を生じるが、小型のマイコンなどを開放
空間で使用している間は問題になることは少ない。しかし酷暑の日中の打ち上げとな
った 2019 年能代の電装では熱でカメラが停止する事例が生じた。筐体という密閉空
間に置かれていたこと、機体外装が黒であり太陽光を吸収しやすかったこと、シーケ
ンスが遅れたことなどが原因であると見られている。熱を抑える方法としては消費電
力の小さいマイコンを使う(処理能力とトレードオフになるが)、電力伝達、電圧変
換のロスを減らす(三端子レギュレータでは入力と出力の差が大きいほど熱を生じる)
などが挙げられる。熱を排出する方法としては機体のカプラー等をヒートシンクとし
て熱を逃がす、冷却水を循環させる、ペルチェ素子などが考えられる。


3.4 アクティブ姿勢制御


空中で機体の姿勢を能動的に制御する技術のことである。フィンや機体形状によ
る安定はパッシブ姿勢制御と呼ばれる。アクティブ姿勢制御の手段としては航空機
のような動翼を用いる方法とロケットのような推力を用いる方法がある。空中で能
動的に姿勢を制御できるようになると、パッシブより広い範囲で安定性を獲得でき
るだけでなく、飛翔中に軌道を変えて効率よく高高度を目指したり、放出物の安全な
射出(パラシュート、CanSat 等)、内蔵カメラでの安定した撮影をしたりすることが
可能になる。しかしこの技術は失敗したときに意図しない方角への飛翔や空中で不
安定化など事故が発生する可能性が高い。実験も大規模になるため実現は非常に困
難であろう。