工学男子の日常

モノづくりが好きな男子の日記です。

ロケット電装の作り方(2)

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2 作成の手順


2.1 立案


まずロケットを作るにあたっての大まかな計画が立てられる。打ち上げの目
的(ミッション)、目標高度、使用するエンジン、打ち上げ時期・場所などが定
められると、それらを達成するために必要な重量、サイズなどの要素が決定され
ていく。この時に電装班として注意すべき事項は

  •  電装のサイズ・重量の制限
  • パラシュートなど電装が関わる機構
  • 準備から打ち上げ、回収までにかかる時間

などがある。これ以外にもミッションの達成や新しい機能の実現には電装班と
その他の班の連携が不可欠なので、緊密に情報共有し必要があれば分かりやす
く説明する。
続いて電装班内部で上記に加えて以下のことを協議する。

  • 搭載するセンサの種類
  • 役割分担
  • タイムスケジュール

この他にも同時期に別のプロジェクトが進行していたら共有できる部品や作業
があるかもしれないので、自分が参加しているプロジェクト以外についても把
握しておくと良い。


2.2 選定


立案で大まかな概要が見えてきたら部品の選定に入る。どうしても部品種類
が多くなりがちなので複数人で分担したり電源類、センサ類などで分担したり
してもよい。部品の選定に熟達するのは経験が必要なので、必ず詳しい人にその
選定が妥当かどうかを確認する。説明の都合上選定を先に書いたが、特に電源系
などはその他の部品の消費電流が定まってからでないと部品の選定ができない
のでこの順番通りに進める必要はない。設計や評価の結果、性能が不足している
ことが判明したり、より小型軽量な部品で置き換えられることがわかったりし
た場合柔軟に部品を変更する。


2.2.1 データシート


全ての電子部品にはデータシートと呼ばれるその部品の特性などを記し
たデータシートという文書がメーカーから公開されている。部品を選定する
場合には必ずこのデータシートを確認する癖をつける。英語の場合が多いの
で読みたくなくなるかもしれないがデータシートにはその部品の電気的性
能や寸法だけでなく、製品を使った回路の例や避けるべき事項など有用な情
報が載っていることもある。
最低限以下の事項については確認する。

  • マイコン:動作電圧、消費電流
  • 抵抗:抵抗値、定格電流
  • コンデンサ:電気容量、定格電圧
  • MOSFET:定格電圧・電流、チャンネル、しきい値電圧
  • ダイオード:定格電圧・電流、順方向電圧降下
  • 三端子レギュレータ:入力電圧、出力電圧、最大出力電流、ドロップアウト電圧
  • センサ類:動作電圧、消費電流、通信方式

2.2.2 モジュール類


立案で定めた種類のセンサについて実際にどのメーカーのどの製品を使
うのかを決定する。たとえば 9 軸だけでも Adafruit の MPU9250 や Bosch
の BNO055、ST マイクロの LSM9DS1 など様々な製品がある。それぞれ性
能や通信方式、サイズや値段に違いがあるので適切なものを選定する。また
人気のあるセンサのプログラムはインターネット上で提供されていること
もあるので考慮する。機能が多いものは魅力的だが初期設定などプログラ
ミングが難しくなることもあるので担当者の技量を考慮して選定する。
実際には出回っている製品で性能が足りないということは稀なので、サ
イズと値段、マイコンが扱える通信方式をみて選ぶことになる。後述の代表
的な部品の項も参照すること。


2.2.3 マイコン


センサやアクチュエータを操作するのに十分な IO ポートや性能を持った
マイコンを選定する。開発ボードと呼ばれる周辺回路とマイコンが一体と
なった部品は単体で動作するのでテストしやすい、電源回路などが内蔵さ
れているなどの利点があるが、規模の大きい電装ではスペースの問題が出
てくる事がある。開発ボードではなくマイコン単体で使用する場合、最適化
して全ての性能を引き出すことができるが回路の設計から始めなければな
らないため大変面倒になる。


2.2.4 電源


膨大な選択肢があるため最も選定が難しい部分である。まず電池として
なにが使えるのかを確認する。多くのマイコンは 5V か 3.3V、アクチュエー
タは 5V 程度で動作するので電圧が足りない場合、必要な電圧を確保するた
めに直列にする。以下によく用いられる電池の電圧、特徴を記す。

このうち、Li イオン・LiPo・LiFe については 2020 年現在、能代、伊豆で
の搭載が一部を除いて(カメラの内蔵バッテリー等)禁止されているのでそ
れらには使用できない。重量あたりエネルギーなどから見ると Li 系が最強
なので大変残念だ。代替として一次リチウム電池があるが使い捨てである。
モジュールやアクチュエータで必要な電圧、電流を確保でき、準備~回収
まで動作を続けられるだけの容量を備えた電池を選定する。またフライト
ピンという打ち上げ時に外れる電線を使って打ち上げまでの間外部から電
源を供給すれば機体に搭載する電池はより少なくて済む。モータを動作さ
せる電源とマイコンに供給する電源と別にして信頼性を高めることや、レ
ギュレータと DC-DC コンバータの入力電圧と効率の関係など非常に多く
のことを考えて選定する必要がある。

電池から供給される電圧は多くの場合マイコンやセンサが必要な電圧と
異なっているので電圧を変換する部品を選定する。多くの場合は三端子レ
ギュレータか DC-DC コンバータを用いて電圧を下げることになるはずだ。
この際、モジュールやマイコンが要求する電流に余裕を持って出力できる
部品を選定する。また三端子レギュレータは下げた分の電圧を熱として放
出するのであまりに損失が大きいと電装内部の熱が原因で不具合を起こす。
詳しくは冷却の項を参照されたい。

 

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